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November 19, 2008

その日のまえに

「その日のまえに」
 ○監督:大林宣彦 ○出演:永作博美、南原清隆

 「永訣の朝」宮沢賢治
けふのうちに
とほくへ いってしまふ わたくしの いもうとよ
みぞれがふって おもては へんに あかるいのだ
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

うすあかく いっさう 陰惨(いんざん)な 雲から
みぞれは びちょびちょ ふってくる
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

青い蓴菜(じゅんさい)の もやうのついた
これら ふたつの かけた 陶椀に
おまへが たべる あめゆきを とらうとして
わたくしは まがった てっぽうだまのやうに
この くらい みぞれのなかに 飛びだした
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

蒼鉛(そうえん)いろの 暗い雲から
みぞれは びちょびちょ 沈んでくる
ああ とし子
死ぬといふ いまごろになって
わたくしを いっしゃう あかるく するために
こんな さっぱりした 雪のひとわんを
おまへは わたくしに たのんだのだ
ありがたう わたくしの けなげな いもうとよ
わたくしも まっすぐに すすんでいくから
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

はげしい はげしい 熱や あえぎの あひだから
おまへは わたくしに たのんだのだ

銀河や 太陽、気圏(きけん)などと よばれたせかいの
そらから おちた 雪の さいごの ひとわんを……

…ふたきれの みかげせきざいに
みぞれは さびしく たまってゐる

わたくしは そのうへに あぶなくたち
雪と 水との まっしろな 二相系をたもち
すきとほる つめたい雫に みちた
このつややかな 松のえだから
わたくしの やさしい いもうとの
さいごの たべものを もらっていかう

わたしたちが いっしょに そだってきた あひだ
みなれた ちやわんの この 藍のもやうにも
もう けふ おまへは わかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)

ほんたうに けふ おまへは わかれてしまふ

ああ あの とざされた 病室の
くらい びゃうぶや かやの なかに
やさしく あをじろく 燃えてゐる
わたくしの けなげな いもうとよ

この雪は どこを えらばうにも
あんまり どこも まっしろなのだ
あんな おそろしい みだれた そらから
この うつくしい 雪が きたのだ

(うまれで くるたて
  こんどは こたに わりやの ごとばかりで
   くるしまなあよに うまれてくる)

おまへが たべる この ふたわんの ゆきに
わたくしは いま こころから いのる
どうか これが兜率(とそつ)の 天の食(じき)に 変わって
やがては おまへとみんなとに 聖い資糧を もたらすことを
わたくしの すべての さいはひを かけて ねがふ


いきななり全文引用してしまいましたが、この映画を観るともう一度読み返したくなり
ます。多分筆者が中学生か高校生のときに国語のプリントで課題としてもらったのでは
ないかと思います。最近30年ほど前の記憶を呼び起こさせる映画が多く、この作品も
その一本となりました。授業でやっていた当時、それほど熱心に聴いていたわけでは
ないのですが、やはり「あめゆじゅ とてちて けんじゃ」というフレーズは記憶に
残りこうして30年後にこの映画と結びついたのです。この映画、「その日の前に」
(原作:重松清)が原作となっていますが、もうひとつの原作は宮沢賢治の
「永訣の朝」になるのではないでしょうか。ところどころに宮沢賢治のモチーフが
出てくるのでとくにその印象が強まります。電車→汽車へと変わって「銀河鉄道の夜」
を思い出させ、クラムボンという名のセロ弾きが登場するあたりは「セロ引きのゴーシュ」
を。クラムボンは宮沢賢治の作品のなかでは謎とされている言葉で劇中では妹の利子の
ことではないかとされていました。多分これは映画の中の新しい解釈でしょう。
そのような宮沢賢治色にあふれる作品という側面を持ち通常なら暗く悲しい物語になる
ところを主演二人の好演によりとてもファンタジー色の強い素敵な作品に仕上がって
います。

「A MOVIE」を再開して何作目になるのでしょうか。
この雰囲気、始まり方が気にいっています。

何度も繰り返される夫婦の風景、その間に何があったか最初は語られませんが
ストーリーが進行するにつれてその間が埋められていくサスペンス性が見事。

いきなり「ハウス」が画面いっぱいに大映しになり「かもめハウス」という
海の家が映しだされます。前後の関係性がつかめないままに、昔の大林映画の合成
のような映像。自称70歳の新人監督といわれていたのがわかります。
そう原点に戻っているのです。劇場用初の作品「HOUSE」へのオマージュを
自ら行っている。

永作博美がよくなったと思えるようになったのは今年に入ってから。
撮影の順番はわからないがドラマ「四つの嘘」はよかった。それからドラマで
「週刊真木よう子」の1本に出ている元ホステス役もなかなかいい味を出していた。
かわいい顔をして鋭い言葉を吐くそのギャップ。年齢がその重みを出してきたのか。
この映画でも笑顔で何事にも立ち向かっていく姿がまぶしく素敵だ。
こんな女性が大好きだ。カッコイイ。もちろんその裏にある悲しみ、苦しみが
伝わってくるから彼女の笑顔が素敵に見えるのだ。

駅長君のようなキャラクターの登場は大林映画のファンタジー演出では当たり前
なのだが、このあたりは意見が分かれるところだろうな。アレルギーのある人も
いるのではないか。

峰岸徹の出演は当初予定が無かったが、もう最後であると知って監督が付け加えた。
一緒に登場する犬は峰岸家のペットで場所も自宅とか。ほんの一瞬のシーンだが
元気そうな姿が映し出された。
 峰岸徹という役者を知ったのは大林映画の「ねらわれた学園」だった。京極役が
強烈に印象に残っている。あまりにマンガチックな演出をこの人はこなしたのだ。
その後「ゴジラVSビオランテ」のゴジラにカドミュウム弾を撃ち込む自衛隊の
隊長役がよかった。大阪城のビジネスパークの近くを通るといつも思い出すのだ。
ココで権藤(峰岸徹)がゴジラに敗れたんだって。  ご冥福をお祈りします。

「その日のまえに」はすべての人に平等におとずれる死についてどう考えるかの
物語である。決して病で死を迎えることだけについて語っているのではない。
ココ最近の大林映画では死についてをテーマにしていることが多い。
「なごり雪」「転校生」「22歳の別れ」みなそうだ。だがしっくり来ないところも
あって、今回初めて語りたいことが判ったような気がした。

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